乳がんは他人事じゃない。若年性乳がんのリアル
PROFILE
1 20代・30代も「無関係」じゃない乳がんの現実
2 若年性乳がんとは?〜“見えにくい”リスクの正体〜
3 20代~30代までの乳がんの備えとは
4 乳がんを「正しく理解すること」の重要性
20代・30代も「無関係」じゃない乳がんの現実
15歳~39歳の若年層のことを一般的にAYA世代と呼び、この世代に発症する乳がんは、乳がん全体のうち約5%と、非常に少ない数値です。確かに乳がんは40歳以降に急増するもので、行政や企業による検診の対象年齢も40歳以上となっていることがほとんどです。

出典元:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
しかし、グラフでわかるように、実際には30代、特に35歳以降から乳がんの発症が増えていきます。少ない数ではあっても絶対にかからないと言い切ることはできず、乳がんは女性であれば誰でもかかり得る病気です。
若年性乳がんとは?〜“見えにくい”リスクの正体〜
I’m OK?編集部:若年層での乳がんの特徴があれば教えてください。
大井医師:まず、35歳未満で発症する乳がんを若年性乳がんといいます。そもそも若年層に限らず、乳がんというのは早期発見・早期治療によって90%以上が治るがんです。少し前までは、若年性乳がんはその他の乳がんに比べて進行が早く、治しにくいと考えられていました。しかし最近では若年性乳がんでも進行が早いとは限らず、治すことができるケースが増えてきています。
そういう意味では他の乳がんと大きな違いはないのですが、発症する可能性が少ないからこそ、遺伝的要素が関係しているケースがやや多い側面があります。乳がんの場合、親や姉妹といった血縁者が乳がん経験者だと乳がんにかかりやすい、遺伝性のものが存在します。乳がんの遺伝子を持っている人はそうでない人に比べて約1.5~2倍乳がんのリスクが高くなります。
▼乳がんのリスクに関する詳細はこちらの記事でご確認ください。
医師に聞きたい!「乳がんになりやすい人」っているの?
I’m OK?編集部:遺伝リスクを除けば、乳がんという病気自体は若年性のものであっても大きな違いはないんですね。
大井医師:はい、そうです。ただし、高濃度乳腺といって若い人の方がマンモグラフィで乳がんを発見することが難しい状態であることが多いです。それから、数は少ないとはいえ、20代~30代というのはまだ働き始めたばかりだったり、結婚や妊娠を経験していない時期だったりということも多く、若いからこそ、金銭面やその後のライフプランに大きな影響を与えるというケースがあります。
20代~30代までの乳がんの備えとは
I’m OK?編集部:確かに若いときの病気がライフプランに与える影響と、40代以降のライフプランに与える影響では種類が異なるかもしれませんね…。では、40歳以前の女性にとっての、正しい乳がんへの備えというのはどういうことになりますか?やっぱり検診を受けるべきですか?
大井医師:マンモグラフィ検診で十分とは言い切れません。先ほどお伝えしたように、若い人ほど高濃度乳腺という乳房の状態であることが多く、この場合はマンモグラフィでは胸全体が白く映ってしまい、例えばがんがあってもとても発見しにくいんです。また、乳がん検診にも種類があり、年齢によってもどの検査が適しているかというのが異なります。マンモグラフィ検診ですべてのがんが発見できるわけでもないし、検診のデメリットというものもあります。そのため、まず誰にとっても重要なのは自分の胸とその変化に関心を持つこと。これを「ブレスト・アウェアネス」といいます。これは若年層に限らず、硬いものが触れないか自己チェックすることが乳がん早期発見のために欠かせない習慣だと覚えておいてください。
▼ブレスト・アウェアネスの詳細はこちらの記事でご確認ください。
ブレスト・アウェアネスってなに?自分のために習慣化したい「健康のためのバストケア」
そして20代では、遺伝的リスクがなく、気になる症状もないならば乳がん検診の必要性は高くありません。しかし、気になる症状がある場合は乳腺外科外来を受診するか、血縁者に乳がんの方が多く心配な場合は、超音波検診を受けることを検討しましょう。
30代では、ご自身が気になるのならば超音波検診を受け、その結果マンモグラフィの必要があるかを医師と相談してみてください。妊娠や出産のライフプランがある人は少し注意してください。乳がん検診を受けてはいけないわけではないのですが、妊娠中や授乳中はマンモグラフィの対象外となってしまうことが多いんです。その結果、二人目、三人目と妊娠が続いた場合に、結果として乳がん検診を受けられない時期が長くなってしまうことがあります。また、授乳中の乳房は乳腺超音波検査でも小さな所見が見つかりにくいという特徴があります。30代以降でこれから妊娠の希望などがあれば、一度事前に検査を受けておくという選択もありますね。


I’m OK?編集部:検診ではわかりにくいからこそ、日々の気づきが必要だということですね。
大井医師:それに、のう胞や乳腺症など、胸の病気というのは乳がんだけではありません。日頃から自分の胸に関心を持つということは、そういう他の病気にも気がつけるということ。遺伝リスクがない若年層では、検診よりもまずはブレスト・アウェアネスをお勧めします。
I’m OK?編集部:若年層だと受けられる乳がん検診にも制限があるというお話でしたが、これはどういうことですか?
大井医師:乳がん検診にもいくつか種類があって、大きく分けるとマンモグラフィと超音波検査があります。行政や企業での集団検診はマンモグラフィであることがほとんどですが、20代では一般的にはマンモグラフィは推奨されません。そのため、20代で乳がん検診を受けるのであれば、乳腺超音波検診の対象です。
乳がんを「正しく理解すること」の重要性
I’m OK?編集部:乳がん発症の可能性が高まる40代に入る前に、自分の胸に関心を持つ習慣をつけることが大切だとわかりました。先生は、40代以前の女性が乳がんを正しく理解するためにはどんなことが必要だと思いますか?
大井医師:今はSNSやWEBで色々なことが学べる時代です。実際、有名な方が乳がんについて発信したのをきっかけに検診を受診する人も多く、とても良いことだと思います。ただし、情報には精査が必要。正しいこともそうでないことも拡散されやすい時代だからこそ、病院や厚生労働省といった専門機関が出している情報を参考にしてください。また、授乳経験がある方が、卒乳後の母乳が乳腺に残っていると乳がんになりやすいと思い込んでいることが多いです。実際、卒乳後に残っていないか診てほしいと診察に来る人もますが、これは全く関係ありません。
そして、女性がもっと気軽に病院にいけたらいいなと思います。胸に気になる症状があったら、自分で情報を集めるだけではなく、きちんと乳腺外科外来を受診してください。自覚症状がない場合も、40歳以降は2年に1回の乳がん検診は必ず受けてください。