妊娠にかかる費用は?出産費用の平均や内訳についても解説
PROFILE
1 妊娠・出産に関わる費用
2 妊娠初期にかかる費用
3 妊娠中期にかかる費用
4 妊娠後期にかかる費用
5 妊娠・出産に使える助成金等
6 妊娠が判明したらお金の管理を徹底しよう
妊娠・出産に関わる費用
まずは妊娠と出産に関わる費用の基礎知識について解説します。
費用は大きく3つに分けられる
妊娠と出産にかかる費用の内訳を確認すると、妊婦健診費用、出産費用、ベビー・マタニティ用品の購入費用の3つに分類できます。それぞれの費用の相場は、次のとおりです。
費用名 | 相場 |
---|---|
妊婦健診費用 | 約11万円 |
出産費用 | 約47万円 |
ベビー・マタニティ用品の購入費用 | 約10万円 |
参考:福岡銀行
厚生労働省 出産費用の実態把握に関数調査研究(令和3年度)の結果等について
妊婦健診の回数は14回を想定しています。全ての自治体で妊婦健診費用の助成を行っていますが、自治体ごとに助成金額は異なる上、病院により検診費用もバラバラなので、自己負担額は大きく変化します。夜間診療や時間外診療、里帰り出産を利用した場合は、相場よりも費用が高くなりやすいです。
出産費用は出産の状況と病院によって変動します。帝王切開等の異常分娩の場合は健康保険の適用が可能です。そのため、異常分娩の場合は正常分娩よりも費用が安くなります。
ベビー・マタニティ用品の購入費用は人によって差がでやすい費用です。特にマタニティ用品は代用が利くため、妊娠や出産にかかる費用の中で最も節約しやすい費用と言えます。
妊娠・出産にかかる費用は公的保険の対象外
妊娠や出産は病気とみなされないため、検診費用や分娩費用は健康保険の対象外です。ただし、出産後は健康保険から出産一時金が支給されるので、分娩費用の負担は軽くできます。
また、妊娠により妊娠高血圧症候群や悪阻、貧血になった場合の治療は医療行為としてみなされるため、健康保険が適用されます。分娩時に帝王切開や陣痛促進剤、吸引・鉗子分娩出術が行われた場合も公的医療保険の対象です。
妊娠・出産費用の公的医療保険の適用について本格的な議論を開始するため、厚生労働省は2024年5月15日に医療関係者や妊娠出産の当事者が参加する検討会の立ち上げを発表しました。さらに政府は正常分娩での出産費用に2026年度から公的医療保険を適用し、自己負担を求めないことを検討しています。少子化を解消するために、議論が順調に進んでいくことが期待されます。
出産費用は施設・地域によって差がある
出産費用は出産する施設や都道府県によって異なります。出産施設ごとの出産費用の相場は、次のとおりです。
施設名 | 出産費用の相場 |
---|---|
公的病院(国公立病院、国公立大学病院、国立病院機構) | 約46万円 |
私的病院(私立大学病院、医療法人病院、個人病院) | 約50万円 |
診療所・助産院 | 約47万円 |
参考:厚生労働省 第155回社会保障審議会医療保険部会
出産費用は公的病院が最も安く、私的病院が最も高いことがわかります。金額差は約4万円です。出産費用は分娩方法によっても変動します。正常分娩は公的保険対象外で全額自己負担のため、異常分娩の場合よりも費用の負担が重くなるでしょう。
都道府県別の出産費用の相場は、次のとおりです。
都道府県名 | 出産費用の相場 |
---|---|
東京都 | 約60万円 |
神奈川県 | 約55万円 |
宮城県 | 約51万円 |
熊本県 | 約36万円 |
参考:[NHK 出産費用を“見える化” 一覧できるサイトを厚生労働省が開設]()
東京都は約60万円で最も出産費用が高いエリアになります。次に神奈川、宮城と続きますが、最も安いのは約36万円の熊本県です。東京都との金額差はおよそ24万円です。
東京都は高齢出産の割合が高く、人口あたりの分娩数が少ないという特徴があります。サービスの質を向上させ、ブランド力をアピールする施設も多いです。さらに医療施設や土地代も高額で医師不足により人件費も高いため、東京都の出産費用は右肩上がりの状況が続いています。
妊娠初期にかかる費用
妊娠初期とは、妊娠1〜4カ月の時期を指します。この期間にかかる費用について解説します。
妊婦検診の費用:約2万5,000円~5万円
妊娠初期は4週間に1回の頻度で合計4回の妊婦健診が行われます。初診の費用は5,000円〜1万円、2回目以降は5,000円〜8,000円程度であることが多いです。初診料は検査内容によって異なるため、不安な場合は予約の際に確認しておくことをおすすめします。妊娠初期4回分の検診費用は約2万5,000円~5万円です。
基本の検査のみの場合は1万円以下で済むことが多いですが、オプションの検査を受ける場合は1万円〜2万円かかることもあります。
ただし、母子手帳を受け取る際に自治体から妊婦健診費用の補助券が発行されます。初診は全額自己負担になりますが、母子手帳交付後は補助券を使用して妊婦健診費用の負担を軽くすることが可能です。なお、補助金額は自治体によって異なります。
その他の購入品にかかる費用:約1万円~2万円
妊娠初期にマタニティグッズを購入する場合は、合計で約1万円〜2万円くらいの費用が必要になります。妊娠初期に購入するのがおすすめなマタニティグッズは、次のとおりです。
購入品 | 費用 |
---|---|
マタニティウェア | 約1,000円~3,000円 |
妊婦帯 | 約3,000円~5,000円 |
マタニティクリーム | 約2,000円~5,000円 |
妊娠初期のマタニティウェアは、つわりや体調の悪い場合でも楽に着こなせるものを選びましょう。体型の変化に合わせてサイズが調整できる機能付きのものなら、妊娠後期まで使えます。
妊婦帯はおなかを保温するために必要です。体を支えてくれるので、腰痛の予防にもなります。妊娠初期は、伸縮性があっておなかを締め付けないタイプのものがおすすめです。
マタニティクリームは、妊娠線を予防するために妊娠初期から使用している人もいます。つわりで匂いに敏感になっている場合は、無香料のクリームを選びましょう。
妊娠中期にかかる費用
妊娠5〜7カ月にあたる期間が妊娠中期です。この期間にかかる費用について解説します。
妊婦検診の費用:約1万5,000円~4万5,000円
妊娠中期は2週間に1回の頻度で合計6回の妊婦健診が行われます。6回分の妊婦健診の合計費用は約1万5,000円〜4万5,000円です。また、妊娠中期は希望者のみ出生前検査ができます。受ける場合は1万5,000円程度の費用が必要になります。
妊娠中期は腹部超音波による胎児計測が行われますが、施設によって4Dエコーや動画撮影がサービスとして用意されているケースも多いです。利用する場合は、さらに追加費用が必要になることを把握しておきましょう。
戌の日参りにかかる費用:約5,000円~1万円
妊娠5カ月をすぎると、安産を祈願するために戌の日参りに行く人が多いです。戌の日参りでは、初穂料として約5,000円〜1万円をお供えします。初穂料は神社やお寺によって異なるため、事前にホームページ等で調べておくと安心でしょう。
また、戌の日参りの際に帯祝いを行うこともあります。帯祝いのお返しは一般的には不要とされていますが、感謝の気持ちを伝えるために食事会を開く人も多いです。もしお返しをする場合は、お祝いの3分の1の金額の品物を選ぶようにしましょう。
マタニティウェア・パジャマの費用:約5,000円~1万円
妊娠中期には、おなかの大きさや季節によってマタニティウェアやパジャマの買い足しが必要になります。1着あたりの相場は約3,000円〜5,000円です。大体5,000円~1万円くらいを用意しておくとよいでしょう。
妊娠後期にかかる費用
妊娠8〜10カ月にあたる期間が妊娠後期です。この期間にかかる費用について解説します。
ベビー用品の費用:約5万円~10万円
妊娠後期になるとベビー用品を準備する必要があります。出産前に最低限用意しておきたいベビー用品の一例は次のとおりです。
● おむつ
● おしり拭き
● 肌着・ベビー服
● ケア用品
● 沐浴グッズ
● ベビー布団
出産前のベビー用品の準備にかかる費用の相場は約5万円〜10万円です。ただし、季節や赤ちゃんの状態によって費用は変動します。
さらに、妊娠後期になったら、ベビー用品だけでなく入院用品の準備も必要です。臨月に入る前に病院から指示されたものを準備しておきましょう。
出産費用の平均と内訳
厚生労働省が発表した資料によれば、2022年度の出産費用の全国平均は一人あたり約48万円でした。2021年度は約47万円、2020年度は約46万円のため、出産費用の推移では年間1%前後で増加しています。正常分娩で出産した場合の費用の内訳は、次のとおりです。
費用名 | 相場 |
---|---|
入院料 | 約11万円 |
室料差額 | 約1万円 |
分娩料 | 約25万円 |
新生児管理保育料 | 約5万円 |
検査・薬剤料 | 約1万円 |
処置・手当料 | 約1万円 |
産科医療補償制度 | 約1万円 |
その他 | 約2万円 |
参考:国民健康保険中央会 出産費用平成28年度
参考:厚生労働省
室料差額は個室を利用した場合にかかります。出産する施設や都道府県、入院日数によって違いはありますが、出産には50万円前後かかることを覚えておきましょう。
また、出産費用は原則として一括で支払う必要があります。退院時に支払うのが一般的なため、50万円程度の現金を用意しなければなりません。クレジット払いに対応している病院であれば、クレジットカードで支払うこともできます。しかし、すべての医療機関がクレジットカード払いに対応しているわけではないので、事前に支払い方法を確認しておきましょう。
妊娠・出産に使える助成金等
妊娠や出産にかかる経済的な負担を軽減するために、国や自治体では助成金制度を設けています。妊娠・出産時に利用できる助成金は、次のとおりです。
● 妊婦健康診査受診票
● 出産育児一時金
● 出産手当金
● 高額医療費制度
制度の概要や助成される金額について解説します。
妊婦健康診査受診票
妊婦健診費用は自治体が一部助成を行っています。妊娠が判明したら、できるだけ早く市区町村の窓口に届出を提出してください。提出後に妊婦健康診査の受診票が交付されます。
妊婦健診の公費負担回数は多くの自治体で14回ですが、それ以上の場合もあります。超音波検査の助成回数は自治体によって異なるため、知りたい方は市区町村に問合せてください。東京都の場合は、次の検査項目の助成が受けられます。
● クラミジア抗原
● 経腟超音波
● HTLV-1抗体
● 貧血
● 血糖
● B群溶連菌
● NST
● 子宮頸がん検診
検査項目には受診推奨時期があるので、週数に応じて各1項目を選択してください。問診や体重測定、血圧測定等の基本検査は毎回助成が受けられます。受診票の項目以外の検査を受ける場合は、公費負担との差額を負担する必要があるので注意しましょう。
出産育児一時金
健康保険や国民健康保険の被保険者が出産した場合は、出産育児一時金が支給されます。金額は2023年4月より、1児につき42万円から50万円に引き上げられました。ただし、妊娠週数が22週に達していない場合や、産科医療補償制度の対象とならない出産の場合は、支給額が48.8万円になります。
出産育児一時金の対象者は、妊娠4カ月(85日)以上で出産をした人です。そのため早産、死産、流産、人工妊娠中絶の場合も支給対象に含まれます。出産育児一時金の支給方法は、次の3通りです。
● 直接支払制度
● 受取代理制度
● 直接申請
支給方法によって必要書類や申請手順、申請期限が異なるので事前に調べておきましょう。また、海外で出産した場合もあとから申請可能です。申請にかかわる書類は大切に保管してください。
出産手当金
出産手当金は、妊娠や出産のために仕事を休んだ場合に支給される生活保障のための手当てです。対象期間は出産日以前42日から出産の翌日以後56日目までとなります。支給金額は、1日につき被保険者の標準報酬日額の3分の2に相当する額です。
出産手当金を受け取るためには、協会けんぽや健康保険組合への申請が必要になります。出産手当金支給申請書の記入欄をすべて埋めて、協会けんぽや健康保険組合に提出してください。提出期限は2年間です。
産休を取得せずに退職した場合も、要件を満たしていれば出産手当金がもらえます。支給対象とならないケースもあるので、要件をよく確認しておきましょう。
高額療養費制度
正常分娩の場合は公的保険の対象外のため高額療養費制度は利用できませんが、帝王切開等の異常分娩で公的保険の対象となり、医療費が一定額を超える場合は高額療養費制度が適用されます。自己負担限度額を超えた分の医療費が戻ってくるため、忘れずに申請してください。
高額療養費制度を適用させるためには、保険証に記載されている管轄の協会けんぽの支部に高額療養費支給申請書を提出します。医療機関等から提出される診療報酬明細書の審査が必要なため、払い戻しが行われるまで3カ月程度必要です。高額療養費の申請期限は、診療を受けた月の翌月から2年間となっています。期限を過ぎると権利が消滅してしまうので気をつけましょう。
参考:厚生労働省
全国健康保険協会
生命保険文化センター
妊娠が判明したらお金の管理を徹底しよう
妊娠期間中は妊婦健診費用が必要です。公的保険の対象外となるため、基本的に費用は全額自己負担となります。自治体から一部助成金を受けることも可能ですが、妊娠の状態によって費用は異なるため、補助券等を使っても高いと感じる場合があるでしょう。
また、出産費用の負担は出産育児一時金で軽減できますが、支給されるまで期間がかかります。出産費用は年々増加傾向にあるため、今後も上がっていくことが予想されるでしょう。妊娠が判明した段階から、まとまった金額を貯めておくことが大切です。
国や自治体、公的医療保険では、妊娠や出産のための助成を設けています。申請しないともらえない助成金もあるので、申請忘れには注意してください。対象者や対象条件を確認して、必要な支援を受けましょう。