更年期に何もしたくないのはうつの症状?原因や治し方について解説
PROFILE
1 更年期に起こりやすい症状
2 更年期にうつが起きる原因
3 更年期のうつを改善する方法
4 更年期のうつの治療方法
5 更年期うつとうつ病の違い
6 原因や改善法を理解して更年期うつに備えよう
更年期に起こりやすい症状
女性は、閉経前後に更年期と呼ばれる時期を迎えます。更年期は女性にとって避けられないステージの一つであり、ホルモンバランスの変化によって心身にさまざまな症状が現れることがあります。更年期に起こりやすい症状は、次のとおりです。
● 気分の低下
● ホットフラッシュ
● 頭痛・めまい
● 不眠
● 腹痛・腰痛
それでは、更年期に起こりやすい症状を詳しく見ていきましょう。
気分の低下
更年期に起こりやすい症状の一つは、気分の低下です。何らかの原因で落ち込むことがあっても、これまではうまく乗り越えられてきた方も多いでしょう。しかし、閉経前後の時期に気分の低下を感じている場合は、更年期による症状かもしれません。
更年期に気分の低下が起こりやすい理由は、女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)の分泌量が低下するためといわれています。エストロゲンは、8~9歳頃から卵巣で分泌が始まる女性ホルモンです。
分泌量は徐々に増えていき、性成熟期にピークを迎え、閉経に向けて低下していきます。このホルモンの分泌量が低下すると、精神活動を司っている自律神経が乱れ、感情のコントロールが難しくなります。
ホットフラッシュ
ホットフラッシュも、更年期に起こりやすい代表的な症状の一つです。快適な室温の室内にいてもほてりを感じたり、大量の汗をかいたりする場合は、更年期の可能性があります。
ホットフラッシュとは、突発的なほてりや発汗のことです。これは気温や行動に関係なく起こるため、日常生活に支障を来すケースも少なくありません。人によってはほてりや発汗の他、動悸(どうき)が症状として現れることもあります。
ホットフラッシュが起こる理由は、エストロゲンの分泌量の低下です。更年期を迎えてエストロゲンの分泌量が急激に低下することで、発汗や血管運動の調節が乱れ、ホットフラッシュが起こります。
頭痛・めまい
更年期には、頭痛やめまいといった症状が現れることがあります。この時期に頭痛が起こりやすい理由は、エストロゲンの分泌量の低下やストレスの蓄積、気象の変動等さまざまです。
更年期特有の頭痛には、片頭痛や緊張型頭痛、薬剤誘発性頭痛等があります。ただし、突発的な激しい痛みや頻度・強度が強い場合は、命に関わる病気が隠れている可能性があるので注意が必要です。
また、更年期のめまいは血液中のセロトニンが減少し、血管が拡張することで起こります。この時期に起こるめまいは、不動感やふらつき、気が遠くなるような症状が現れる非前庭性めまいです。
▼更年期の頭痛やめまいに関する詳細は、こちらの記事でも紹介しています。
更年期の頭痛がひどい場合の治し方は?おすすめの薬や対処法を解説
更年期にめまいが起こる原因は?症状の特徴や対処法について解説
不眠
これまではほとんど経験がなくても、不眠の症状に悩まされるようになった場合は、更年期による症状かもしれません。更年期に不眠の症状が現れる理由は、エストロゲンの分泌量の減少です。
睡眠の質は、自律神経によって調節されており、エストロゲンの減少によって自律神経が乱れると、睡眠の質が低下しやすくなります。主な症状は、寝つきが悪い、眠りが浅い、すぐに目が覚める等です。
また、更年期の不眠は、セロトニンの減少が原因になることもあります。セロトニンとは、精神を安定させる役割がある神経伝達物質の一つです。ストレスを受け続けるとセロトニンが減少し、不眠や意欲低下等のさまざまな症状を引き起こします。
腹痛・腰痛
更年期には、腹痛や腰痛が起こることがあります。この時期に腹痛が起こる理由は、エストロゲンの分泌量の低下です。エストロゲンの減少によって自律神経のバランスが乱れると、血液循環が悪化し、便秘や下痢等の症状が起こりやすくなります。
ただし、更年期による症状ではなく、卵巣腫瘍をはじめとする大きな病気が隠れている可能性もあります。痛みの頻度や強度が増している場合は、我慢せずに医療機関を受診するようにしましょう。
また、エストロゲンの減少に伴い、腰関節の潤滑性に悪影響を及ぼすと、腰痛が生じることもあります。更年期は、自律神経のバランスが乱れやすい時期です。これにより、血管が収縮され、全身の血流が悪化することで、腰痛をはじめとする体の痛みを感じやすくなります。
更年期にうつが起きる原因
更年期は、女性の心身に大きな影響を与える時期です。この時期には、気分の落ち込みや不眠等のさまざまな症状が現れることがあります。特定の時期に諸症状が現れるのは、次のような原因が複雑に絡み合っているためです。
● 卵巣機能の低下
● セロトニンの分泌不良
● 社会的・精神的なストレス
それでは、更年期にうつが起きる原因を詳しく見ていきましょう。
卵巣機能の低下
女性は、更年期を迎えると心身にさまざまな変化をもたらします。その中でも特に重要なのは、卵巣機能の低下です。卵巣機能は性成熟期にピークを迎え、加齢により低下していきます。
加齢に伴って卵巣機能が低下すると、エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンの分泌量が大幅に減少します。また、更年期はホルモンバランスの乱れにより、自律神経にも影響を与えます。
ホルモンバランスの変動によって自律神経が乱れると、ストレス耐性が低下し、うつを引き起こしやすくなります。卵巣機能の低下は女性にとって自然な生理的変化です。しかし、その影響は身体的症状の他、精神的症状にも及びます。
セロトニンの分泌不良
更年期にうつが起きる原因の一つは、セロトニンの分泌不良が関係しています。セロトニンとは、精神を安定させて幸福感を得やすくする作用がある神経伝達物質の一種です。エストロゲンは、セロトニンやドーパミンといった神経伝達物質の働きに関与しています。
これらの神経伝達物質は、感情や気分の調整に重要な役割を果たしています。エストロゲンが減少すると、セロトニンの生成・放出も低下するのが一般的です。これにより、気分の落ち込みや不安感を引き起こすことがあります。
セロトニンの分泌量が低下すると、うつ症状の他、睡眠障害やパニック障害等を引き起こす可能性もあります。更年期にうつをはじめとする諸症状を引き起こさないためには、セロトニンを増やす工夫も必要です。
社会的・精神的なストレス
うつ症状は、強いストレスが引き金になることもあります。これまではストレスに強いと感じていても、更年期を機にストレス耐性が低下するといったケースも少なくありません。これは、更年期がストレスを受けやすい時期であることが関係しています。
女性には、就職や結婚、出産等のさまざまなライフステージがあります。更年期にもいくつかのライフステージが待ち受けており、精神的な負担が大きいのが現状です。
例えば、夫婦間の問題や両親の介護等です。特に少子高齢化で介護問題が深刻化している中、仕事と家庭の両立に悩む方も少なくありません。ストレスを軽減し、更年期を乗り越えるためには、適切なセルフケアやストレス管理方法を取り入れることが大切です。
更年期のうつを改善する方法
更年期のうつは、多くの女性が経験する症状の一つです。適切な対策を取ることで、心身のバランスを取り戻し、うつ症状を軽減できる可能性があります。更年期症状によるうつに対してはさまざまな対処方法があるため、それらを把握し備えましょう。
食事の栄養バランスを整える
年代にかかわらず、心身の健康を維持するために、日頃から栄養バランスが整った食事を取るようにしましょう。特に更年期はホルモンバランスの変化により、心身の健康に何らかの不具合が生じやすい時期です。
ホルモンの減少による健康バランスの乱れは、食事で改善できる可能性があります。うつを改善するためにも、まずは食生活を見直してみましょう。更年期におすすめの栄養素は、カルシウムやビタミンD、ビタミンE、大豆イソフラボン等です。
大豆イソフラボンは女性ホルモンと似た働きをするため、積極的に摂取するようにしましょう。大豆や豆腐等の大豆製品には、大豆イソフラボンが多く含まれています。食事で十分に摂取できるか不安な場合は、サプリメントの活用もおすすめです。
体を動かす
適度な運動は、更年期のうつ症状の改善に役立ちます。更年期うつを引き起こす原因の一つは、エストロゲンの減少によるセロトニンの分泌不良です。うつを改善するためには、セロトニンの分泌量を増やすことが大切です。
適度な運動は、セロトニンの分泌を促進します。特に、ウォーキングやジョギング等の有酸素運動が効果的です。また、更年期は社会的・精神的ストレスを受けやすく、うつの引き金になる可能性があります。
うつを防ぐためには、ストレスを溜めないよう心がけることも重要です。運動はストレスを解消し、リラックス効果をもたらします。気分が落ち込んでも、爽快感や達成感を味わうことで、症状を和らげられるでしょう。
アロマセラピー
更年期うつを改善するためには、アロマセラピーを活用する方法もあります。アロマセラピーとは、植物から抽出したエッセンシャルオイルを使用し、心身の健康や美容に役立てる自然療法です。
アロマの香りには、自律神経を整えたりホルモン分泌を促したりする効果があります。医療機関では、うつをはじめとする精神疾患の治療(精神科作業療法)の一環として使用されることがあります。
例えば、アロマを使用したリラクセーションストレッチやアロマセラピーマッサージ等です。エッセンシャルオイルにはさまざまな香りがあり、それぞれ効果が異なります。抗うつ効果が期待できる香りは、ジャスミンやイランイラン、ローズ、ローズマリー等です。
医療機関を受診する
更年期うつは、経験する女性が多い更年期症状の一つです。症状が軽度の場合、食事や運動等で改善される可能性もあります。しかし、症状の程度によっては、医療機関を受診したほうがよいこともあります。医療機関を受診するうつ症状の目安は、次のとおりです。
● 気分の落ち込みが2週間以上続いている
● 生活に支障がある
● 絶望的な気分が続いている 等
上記のような症状がある時には、更年期症状によるうつではなく、うつ病が隠れている可能性もあります。うつ病には「症状固定」と呼ばれる概念があり、放置すると治療の成果が上がりにくく、治療が長期化することもあるため注意が必要です。
うつ病は早期発見・早期治療が重要になるため、気になる症状がある場合は、早めに医療機関を受診するようにしましょう。
更年期のうつの治療方法
更年期に見られるうつ症状は、多くの女性にとってつらい経験となるでしょう。しかし、適切な治療を受けることで、症状の改善が期待できます。更年期うつの治療には、次のような方法があります。
● ホルモン補充療法
● 向精神薬の服用
● 漢方薬の服用
それでは、各治療法を詳しく見ていきましょう。
ホルモン補充療法
うつ症状に対しては、ホルモン補充療法で改善されることがあります。ホルモン補充療法とは、ホルモンバランスの変化に伴う更年期のさまざまな不調に対して用いられる治療法です。
女性ホルモンであるエストロゲンの補充は、気分の落ち込みやホットフラッシュ等の身体的・精神的な不調の改善に効果的です。ホルモン補充療法には、貼り薬や飲み薬、塗り薬等があります。
適切な治療方法は人によって異なるため、医師の指示に従いましょう。治療には、月に1,000円~5,000円程度の費用が必要です。また、乳がんや子宮体がんを患っている場合は悪化させるおそれがあるため、ホルモン補充療法は選択できません。
向精神薬の服用
更年期うつに対しては、向精神薬の服用で改善されることがあります。向精神薬は、ホルモン補充療法で症状が改善されない時に使用されるのが一般的です。向精神薬の種類は、抗うつ薬や抗不安薬等さまざまな種類があります。
抗うつ薬のSSRIは、セロトニンの神経細胞外濃度を増やし、不安症状の改善に効果的です。なお、不安や緊張、イライラ等の症状が強い場合は、抗不安薬が使用されることもあります。
また、医師の診断によって適切な向精神薬が処方されるため、具体的にどのような症状に悩まされているのかを正しく伝えることが大切です。近年は副作用の少ない向精神薬が出てきているため、安心して服用できるでしょう。
漢方薬の服用
向精神薬の服用をためらう場合は、漢方薬を検討しましょう。更年期うつの治療には西洋医学の向精神薬だけでなく、東洋医学の漢方薬も用いられます。漢方薬は、比較的副作用が少ない薬です。
西洋薬は、症状に対して処方されるのが一般的です。一方の漢方薬は個人の体質や生活習慣、心の状態等を総合的に判断して処方されます。漢方薬の種類は多く、医療保険の適用を受けたものは148処方もあります。
更年期うつに効果がある漢方薬の例は、加味逍遙散(かみしょうようさん)や半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)等です。なお、漢方薬は体質を根本から改善していくことが目的のため、効果が出るまでに時間がかかりやすい側面があります。
更年期うつとうつ病の違い
更年期うつと一般的なうつ病は、似ているようで実は異なる部分があります。それぞれの症状には独自の特徴があり、治療や対処法も異なります。更年期うつと一般的なうつ病の違いは、次のとおりです。
● 精神的な症状と身体的な症状の割合
● 症状の発生時期
● ホルモンの数値
それでは、更年期うつと一般的なうつ病の違いを詳しく見ていきましょう。
精神的な症状と身体的な症状の割合
うつ病と聞くと、精神的な症状のみをイメージする方も多いでしょう。しかし、うつ病の程度によっては精神的な症状だけでなく、身体的な症状が出ることもあります。更年期うつの場合、精神的な症状が30~50%なのに対し、身体的な症状は50%以上です。
一方で一般的なうつ病の場合、身体的な症状はほとんどなく、精神的な症状が多数を占めることが特徴です。精神的な症状と身体的な症状の割合は、自分がどちらに該当するかの判断基準になります。
ホットフラッシュや頭痛等の身体的症状が多い場合、更年期うつの可能性が高いでしょう。身体的な症状がほとんどなく、気分の落ち込みやイライラ等の精神的症状が強い場合は、一般的なうつ病の可能性があります。
※参考:おおかみこころのクリニック
症状の発生時期
更年期うつと一般的なうつ病の大きな違いは、症状が現れる時期です。精神的・身体的症状が現れる時期により、自分が更年期うつなのか一般的なうつ病なのかを判断する目安になります。
更年期うつの場合、閉経前後のいわゆる「更年期」と呼ばれる時期に症状が現れます。一方の一般的なうつ病は特定の時期に限定されず、どのような時期にも症状が現れる可能性があります。
ただし、更年期にうつ症状が現れても、実は一般的なうつ病を発症していることもあります。気分の落ち込みが続いていたり、日常生活に支障が出ていたりする場合は、迷わず医療機関を受診しましょう。
ホルモンの数値
ホルモンの数値は、更年期うつと一般的なうつ病で違いがあります。更年期うつは、女性ホルモンの減少が原因で引き起こされますが、一般的なうつ病の場合は、女性ホルモンの数値にほとんど変化はありません。
次のような数値が出た場合、更年期うつが疑われます。
エストロゲン:10以下
卵胞刺激ホルモン:40~160
テストステロン:11.8以下
上記の数値は、医療機関で検査を受けることで確認できます。更年期うつ、または一般的なうつ病が疑われる時には、医療機関を受診し、検査してみましょう。
※参考:おおかみこころのクリニック
原因や改善法を理解して更年期うつに備えよう
更年期は、女性にとって心身に大きな変化が現れる時期です。女性は更年期を迎えると、ホルモンバランスの変化により、心身にさまざまな症状が現れます。その一つが更年期うつです。
更年期うつは日常生活に支障を来す可能性があるため、早期に適切な対処をすることが重要になります。うつに対する治療法は、ホルモン補充療法や向精神薬、漢方薬等さまざまです。
更年期うつは、治療以外にも食事の改善や運動、アロマセラピー等で改善することもあります。更年期うつに対して正しい知識を持ち、自分に合う方法を見つけることが大切です。