更年期の動悸(どうき)はいつまで続く?原因や対処法をわかりやすく紹介
PROFILE
1 更年期による動悸の基礎知識
2 更年期の動悸に効果的な3つの対処法
3 更年期の動悸への備え
4 更年期の動悸の治療法
5 動悸は更年期以外の病気にも注意
6 更年期を迎える人のよくある疑問
7 更年期の動悸に悩んだら、対処法を実践してみよう
更年期による動悸の基礎知識
閉経の前後5年ほど、合わせて10年ほどを更年期と呼び、さまざまな更年期症状が発生します。身体的、精神的共に多様な症状が現れ、動悸が起こる方も多いです。まずは更年期に動悸が起こる原因や、動悸が続く期間、発生するタイミング等の基礎知識を確認しましょう。
動悸が起きる原因
動悸をはじめとする更年期障害の原因の1つが、自律神経の乱れです。更年期になると、卵巣の機能低下や女性ホルモンの分泌量減少が起こります。その結果、体内のホルモンバランスが乱れ、自律神経の働きが不安定になってしまうのです。
心臓や呼吸は、自律神経によってコントロールされています。だからこそ、自律神経が乱れると、動悸や息切れを起こしやすいのです。
また、自律神経は精神的なストレスや寝不足、不規則な生活等によっても乱れやすくなります。更年期は、仕事や家庭で責任が重くなる時期と重なる場合も多く、さまざまなストレスにさらされる女性も少なくありません。ストレスにより体や精神に負担がかかり、動悸のような更年期障害につながる場合もあります。
動悸はいつまで続く?発生するタイミングも確認
更年期の動悸がいつまで続くかは、個人差があります。2〜3年ほどで終わる方もいれば、更年期が終わる50代後半〜60代前半まで動悸に悩まされる方もいます。
更年期の動悸は、運動したあとや緊張したとき等、特定のタイミングで発生するわけではありません。更年期に入ると、普通に日常生活を送っているときや寝ているあいだ等、規則性なく動悸や息切れを感じるようになります。
きっかけなく動悸が出ることも多いので、動悸が起きたらどうしようという不安が強くなり、不眠につながるケースも少なくありません。そのため、動悸が起きても慌てずに過ごせるよう、対処法を知っておくことが重要です。
更年期の動悸に効果的な3つの対処法
程度の差はあっても、更年期に不調を感じる女性は多くいます。不調を完全に予防するのは難しいため、対処法を身につけておくのが大切です。
更年期に動悸が起きても、効果的な対処法を知っていれば慌てずに対応できるでしょう。対処法は簡単なものばかりなので、動悸が出たときにすぐ実践できるよう、覚えておいてください。
深呼吸
更年期の動悸が起きたときは、深呼吸をするのがおすすめです。深呼吸には自律神経を整え、更年期の動悸を軽減させる効果が期待できます。
深呼吸をするときは、吸うことよりも吐くことを意識してみてください。鼻からゆっくり大きく息を吸い、おなかを膨らませます。その後、時間をかけて鼻から息を吐き、おなかをへこませましょう。吸うときは4秒、吐くときは8秒ほどかけることを意識すると、上手に腹式呼吸ができます。
動悸が落ち着くまで、まずは10回ほど深呼吸をしてください。可能であれば、動悸が起きたときは椅子に座ったり、ソファやベッドに横になったりして楽な姿勢を取りましょう。深呼吸をしながら安静にすることで、動悸が治まりやすくなります。
ツボを押す
更年期の動悸が起きたときは、ツボを押すのも効果的です。動悸に効果的とされる、以下のツボを押して試してみましょう。
名前 | 場所 | 効果 |
---|---|---|
神門(しんもん) | 手首の内側、小指側にあるくぼみ | 精神安定 |
膻中(だんちゅう) | 乳首同士を結んだ線の真ん中 | 精神安定、自律神経の調整 |
百会(ひゃくえ) | 頭の頂点。左右の耳を結んだ線と眉間から頭頂部を結んだ線が交わるところ | 精神安定、自律神経の調整 |
神門は、更年期の動悸のほか、疲れやストレスにも効果的とされるツボです。左右交互に、親指でじっくりと力をかけて押しましょう。膻中は鎮痛安定作用があるツボで、自律神経の調整にも役立ちます。強く押すと痛みを感じることもあるため、指で軽く押すようにしてください。
百会は動悸だけでなく、急な不安感を解消する効果も期待できるツボです。指の腹を使い、優しく押しましょう。いずれも、深呼吸をしながら押すと心が落ち着き、動悸解消につながります。
アロマ
動悸をはじめとする更年期の症状には、アロマセラピーも効果が期待できます。エッセンシャルオイル(精油)を使用して香りを楽しむことで、リラックス効果が得られるからです。また、病気の治療や症状の緩和に使われるアロマもあるため、動悸に適した香りを選んでみてください。
例えば、エキゾチックで甘い香りが特徴のイランイランには、β-カリオフィレンという成分が含まれています。この成分は、女性ホルモンのエストロゲンを分泌するサポートをしてくれるため、更年期の動悸の緩和につなげられるでしょう。
甘酸っぱくフルーティーな香りのマンダリンは、活発になった交感神経を抑えてリラックス効果をもたらします。自律神経の乱れが原因とされる更年期の動悸に適したアロマです。フレッシュなかんきつと木々の香りが特徴のプチグレンは、緊張や不安を和らげるため、動悸が起きた際等の落ち着きたいときに役立つでしょう。
ただし、アロマはペットとの相性が悪いため、家に動物がいる方は注意してください。例えば猫やフェレット等の動物は、精油に含まれる成分を体外に排出できず、臓器にダメージを蓄積させてしまいます。動悸に対処するためのアロマセラピーは、必ず情報収集をしたうえで始めましょう。
更年期の動悸への備え
更年期の動悸が起きたときの対処法だけでなく、動悸をできるだけ起こさないようにするための対策についても知っておくと安心できるでしょう。動悸をはじめとする更年期の症状を改善するためには、健康的な生活が必要です。以下の方法を実践して、更年期の動悸に備えましょう。
食生活を見直しバランスのよい食事を取る
更年期の動悸を抑えるためには、食生活を見直すのも有効な場合があります。バランスのよい食事で、乱れたホルモンバランスを整えましょう。
バランスのよい食事の基本は、1日3食食べることです。1日2食にして1回に食べる量を増やすようなことをせず、3食を規則正しく食べることが重要です。主食・副菜・主菜が揃った和食の定食スタイルにすると、必要な栄養をバランスよく摂取しやすいため、献立を考える際の参考にしてみてください。
更年期の動悸改善のために取りたい栄養素
更年期の動悸を改善するために取り入れたい栄養素のひとつが、大豆イソフラボンです。大豆イソフラボンは、女性ホルモンのエストロゲンと似た働きをします。更年期に入るとエストロゲンの分泌量が減りますが、食事で補うことで動悸をはじめとする不調の改善につながるでしょう。
大豆イソフラボンは、納豆や豆腐、豆乳、おから、厚揚げ等に含まれています。飲んでいる牛乳を豆乳に変える、肉を使うメニューを豆腐に変えてつくる、薄力粉ではなくおからを使う等、工夫することで調理に取り入れることができます。
ホルモンバランスを調整する効果のあるビタミンEも、更年期の動悸が気になるときに摂取したい栄養素です。ビタミンEは、まぐろや鮭、レバー、アーモンド、かぼちゃ、アボカド等に含まれます。脂溶性のビタミンなので、油を使って調理しましょう。
ビタミンEは、ビタミンAやビタミンCと一緒に摂取するとより効果が期待できます。ビタミンAが多く含まれる食品は、レバーやにんじん、ほうれん草、トマト、卵等です。ビタミンCはパプリカやキャベツ、ブロッコリー、キウイ、イチゴ、みかん等に含まれます。
適度に有酸素運動をする
動悸を含む更年期の症状対策に効果的とされるのが、適度な運動です。運動はストレス発散やリラックスにつながり、きちんと眠れるようになる効果もあります。また、有酸素運動を取り入れることで体力や持久力が向上し、骨密度の改善も可能です。運動で筋力を維持することで、長く健康でいられるというメリットもあります。
厚生労働省が発表した「健康づくりのための身体活動基準2013」では、18〜64歳の身体活動量の基準では、たとえば歩行や歩行と同程度の強度の身体活動を、毎日60分以上行うのが理想ということです。
そのほかにも歩行と同程度の強度の身体活動には、犬の散歩や掃除、自転車、早歩き等が挙げられます。運動をするのはハードルが高いと感じる方は、まず日常的に動くことを心がけてみてください。
また、18〜64歳の運動量の基準では、息が弾み、汗をかく程度の運動を毎週60分することで、十分な運動量を確保できるとされています。適度な運動として、ボーリングやゴルフ、ラジオ体操第一、ウォーキング、卓球等が挙げられます。
運動において大切なのは、続けることです。1週間に3〜4回、1回20〜40分等、続けやすい頻度や時間で行ってみてください。
参考:厚生労働省
更年期の動悸の治療法
動悸をはじめとする更年期の症状に悩んでいる場合は、我慢せず医療機関を受診してください。医師に相談することで治療を受けられたり、生活に関するアドバイスをもらえたりします。次に更年期の症状の治療法として、代表的な2つを確認しましょう。
ホルモン補充療法(HRT)
更年期の症状を治療する方法として、ホルモン補充療法(HRT)が挙げられます。エストロゲンを補うことにより、動悸やほてり、のぼせ等の改善が可能です。
ホルモン補充療法に使われる薬は、飲み薬や貼り薬、塗り薬等さまざまです。症状によっては、長く続けなければ症状が再発してしまう可能性もあるため、医師と相談して治療計画を立てるようにしましょう。
例えばほてりや発汗、冷え等自律神経の不調によって出る症状は、ホルモン補充治療によって2週間ほどで効果が出始めます。基本的に3カ月ほど継続すると症状が改善しますが、すぐに治療をやめてしまうと症状が再発することもあるので注意が必要です。
漢方薬
更年期症状の治療に、漢方薬が用いられることもあります。漢方薬はホルモン補充療法よりも効果が出るまでに時間がかかるケースが多いですが、ひとつの漢方薬で複数の症状を改善できるのがメリットです。
なお、更年期の症状によって、使用する漢方薬は異なります。例えば、ほてりや発汗等がある場合は、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)や加味逍遙散(かみしょうようさん)、女神散(にょしんさん)等を使うのが一般的です。
動悸による不安感や不眠の症状がある場合は、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)や加味帰脾湯(かみきひとう)等が用いられます。使用する前にどの漢方を使うべきか、医師や薬剤師に相談しましょう。
動悸は更年期以外の病気にも注意
閉経前後で動悸がある場合、更年期による症状を疑う方が多いでしょう。しかし、動悸は更年期障害だけでなく、病気が原因で起こっている可能性もあります。速やかに治療しなければ健康に悪影響を及ぼす病気もあるため、動悸が気になるときは一度医療機関を受診するのがおすすめです。
更年期以外で動悸を引き起こす病気として、以下の3つが挙げられます。
心房細動
動悸が気になるときは、不整脈の一種である心房細動の可能性があります。心房細動は心房という心臓内の部屋がけいれんし、うまく働かなくなる病気です。動悸のほかに、めまいや脱力感、息苦しさ等の症状が出ることもありますが、自覚症状なく心房細動になっている方もいます。
心房細動が原因で脳梗塞が起こったり、心不全が起こったりするケースもあるため、早めに治療を受けることが大切です。心房細動の場合、心拍数を低下させる薬や電気ショック等を用いて、心拍リズムを正常に整える治療が行われます。
発作性上室頻拍
発作性上室頻拍は、突然脈拍が速くなり、数分から数時間動悸が継続したあと突然落ち着く症状です。不整脈の一種で、更年期に限らずどの年齢でも起こり得ます。基本的には命に関わる発作ではありませんが、長時間動悸が続いた結果心臓の機能が低下し、心不全に陥ることもまれにあるため注意が必要です。
治療には、頻脈を止める薬が使われるのが一般的です。場合によっては、心臓に電極付きのカテーテルを挿入し、発作性上室頻拍の発生源を焼き切る治療が行われることもあります。
甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症を患っている場合も、動悸が生じます。甲状腺機能亢進症は、甲状腺が過剰に働くことで、血中に甲状腺ホルモンが多く分泌されてしまう病気です。発汗や体重減少のほか、動悸や息切れ、震え、不眠等の症状がみられます。
甲状腺機能亢進症かどうかを診断するために行われるのは、血液検査です。放射性ヨードを経口投与する治療が一般的ですが、甲状腺からの甲状腺ホルモン生産量を減らす薬を用いることもあります。
更年期を迎える人のよくある疑問
これから閉経を迎える方や閉経を迎えた方にとって、心身にさまざまな不調が出る更年期は不安の原因になり得るでしょう。しかし、よくある疑問とその答えを知っておくことで、ある程度不安を解消できます。更年期を迎える方の多くが疑問に思う2つのポイントについて、確認しましょう。
更年期のチェック方法は?
自身が更年期かどうかをチェックするためには、簡易更年期指数(SMI)チェック表が用いられます。更年期症状の有無や程度を点数化しており、合計点によって治療方針が決まる仕組みです。表は以下のとおりで、当てはまるものに丸をつけていきます。
症状 | 強 | 中 | 弱 | 無 |
---|---|---|---|---|
①顔がほてる | 10 | 6 | 3 | 0 |
②汗をかきやすい | 10 | 6 | 3 | 0 |
③腰や手足が冷えやすい | 14 | 9 | 5 | 0 |
④息切れ、動悸がする | 12 | 8 | 4 | 0 |
⑤寝つきが悪い、または眠りが浅い | 14 | 9 | 5 | 0 |
⑥怒りやすく、すぐイライラする | 12 | 8 | 4 | 0 |
⑦くよくよしたり、憂うつになることがある | 7 | 5 | 3 | 0 |
⑧頭痛、めまい、吐き気がよくある | 7 | 5 | 3 | 0 |
⑨疲れやすい | 7 | 4 | 2 | 0 |
⑩肩こり、腰痛、手足の痛みがある | 7 | 5 | 3 | 0 |
参考:厚生労働省
「強」は毎日のように症状が出る、「中」は毎週みられる、「弱」は強くはないものの症状があると考えます。合計点ごとの評価は、以下のとおりです。
● 0〜25点:特に異常なし
● 26〜50点:食事や運動に注意
● 51〜65点:医師の診察を受け、生活指導やカウンセリング、薬物療法を受ける
● 66〜80点:半年以上の計画的な治療が必要
● 81〜100点:各科で精密検査を受け、更年期障害のみの場合は長期的な対応が必要
セルフチェックを行い、合計点が高い場合は医療機関の受診を検討してみてください。
更年期による不調でも仕事は続けられるのか?
更年期の症状が重く、仕事を続けるのが難しいと感じて退職してしまう方もいます。更年期障害は動悸のほかにも、疲れやすさやイライラ、寝つきの悪さ等さまざまで、症状が出ると仕事にも支障をきたすからです。
仕事を続けるためにも、更年期の症状がみられたら早めに婦人科や内科を受診してください。ほかの病気が隠れているかどうかを確認でき、更年期であれば不調を改善するための治療を受けられます。治療によって症状を改善できれば、仕事を続けられる可能性が高まるでしょう。
更年期の動悸に悩んだら、対処法を実践してみよう
更年期の動悸は何の前触れもなく起こるため、次はいつ起こるのか不安になってしまう方もいるでしょう。しかし、深呼吸やアロマ等リラックスする方法を取れば、動悸が起きても落ち着いて対処できます。
症状が重いと感じた場合は、医療機関を受診するのがおすすめです。ほかの病気が隠れていないか知るためにも、更年期の症状を改善するためにも、医師に相談してみてください。