PMSは産後に悪化するのか?対策や不調を乗り切る制度まで紹介
PROFILE
1 PMSは産後に悪化する可能性がある
2 産後のPMSへの3つの対策
3 産後のPMSの治療方法
4 PMSとは
5 PMS以外で産後に注意したい不調
6 産後のPMSに役立つ制度
7 まとめ:PMSの症状が重いときは無理せず相談
PMSは産後に悪化する可能性がある
残念ながら、PMS(月経前症候群)は産後にひどくなる可能性は否定できません。
原因ははっきりとは分かっていないものの、複数の要因が絡み合って起きると考えられています。
● 子育ての悩みや睡眠不足
● 生活習慣の乱れ
● ストレスの増加
出産後は環境の変化が起きるタイミングです。生活習慣等心身へのストレスが出産前と変わってしまうため、産前よりもPMSが悪化する可能性があります。
また、PMSの症状の変化には年齢も要因の1つです。年齢を重ねるごとに症状が重くなるとも言われているため、加齢による変化も考えられます。
そして、産後は、女性ホルモンの分泌が大きく変化します。女性ホルモンが劇的に変化することで、さまざまな精神的・身体的症状が起きると考えられており、産後は変化が不安定な状態が続くため、症状が重いと感じる人も多いようです。
産後のPMSへの3つの対策
産後のPMSを乗り切り、育児の負担を軽くする方法はないか気になる人も多いかもしれません。ここでは、日常で取り組める3つの対策を紹介します。
摂取する栄養を意識した食事
出産で身体が変化した状態から回復できるよう、栄養を意識して食事をとりましょう。積極的にとりたい栄養と、反対に避けたい食事を紹介します。
積極的にとりたい栄養と役割を表にしました。
栄養素 | 食品 | 役割 |
---|---|---|
鉄分 | レバー、ひじき、卵等 | ・血液を作る栄養素 ・産後の造血を早めるのに役立つ |
カルシウム | 乳製品、煮干し、しらす、小松菜等 | ・歯や骨を健康に保つ栄養素 ・赤ちゃんへの授乳に必要で消費されやすい ・PMSの症状の改善に役立つ可能性がある |
ビタミンC | 柑橘類、緑黄色野菜等 | ・鉄分の吸収を高めてくれる ・脳がストレスに抵抗するために必要な副腎皮質から分泌されるホルモンの合成を促進する |
ビタミンB6 | カツオ、サンマ、バナナ等 | ・セロトニンの元になるトリプトファンの代謝に必要 ・イライラや情緒不安定を和らげる |
葉酸 | いわし、納豆、焼きのり、卵等 | ・細胞分裂をサポートし、身体の回復を支えてくれる |
タンパク質 | 大豆や肉類、魚類等 | ・授乳中は母乳に消費されてしまうほか、身体が元に戻るためにも必要 |
バランスよくこれらの食品を食べるためにも、汁物におかずを2種類(一汁二菜)を意識してみましょう。おかずの数が減ってしまうと、摂取できる栄養素がどうしても偏りやすくなってしまうためです。
また、食事をつくる余裕がない時に備え、宅配サービスを選ぶというのもひとつの方法です。電子レンジで温めるだけの冷凍食品やお弁当を届けてもらえるサービス等、さまざまな内容があります。
あわせて、食欲がないときはこまめに食事をとると効果的です。何も食べずにいると育児や授乳に体力を使ってしまい、体調を崩す可能性も高まります。
糖分が多い食事に注意
避けたい食事は、糖分が多く含まれた食事です。
PMSの症状の1つであるイライラの解消、食欲が出ないときの手軽な栄養補給に、甘いおやつをたっぷり食べたくなる時もあるかもしれません。
しかし、甘いものを食べると急激な血糖値の上昇が起きるため、身体は急いで血糖値を下げようとインスリンを豊富に分泌します。結果として血糖値が下がりすぎると低血糖がおき、ますますイライラして甘いものをより食べたくなる可能性があるのです。
急激な血糖値の上昇を引き起こす食品とは、砂糖が多く含まれるお菓子やチョコレート、白米、白パン等です。対策として、食後の血糖値の上昇スピードが緩やかな低GIの食品を取り入れるように心がけてみましょう。
低GIの食品は、玄米や全粒粉パン、蕎麦、豆類等食物繊維を同時にとれるものが挙げられます。野菜類や海藻類等、食物繊維が豊富な食品もおすすめです。
できる範囲で、食事と栄養に気を配りましょう。
※参考:子ども家庭庁
適度に有酸素運動
PMSを改善するには、軽い有酸素運動が効果的とされています。有酸素運動とは、ウォーキングやジョギング、ランニング等です。
呼吸を意識して行う有酸素運動では、副交感神経が優位になり、脳内に幸せホルモンと言われるセロトニンの分泌が増加します。ゆっくりでも運動を行うことで達成感も得られるため、気分転換にもおすすめです。
WHOの身体活動・座位行動ガイドラインでは、妊娠中および産後の健康的な女性であれば、週に合計で150分くらいの有酸素運動が推奨されるとしています。
有酸素運動は分割して取り組んでも効果は変わらないとされており、たとえば150分を10回に分けて行う等、自分の生活にあわせて取り組んでみましょう。座りっぱなしを控えるだけでも、健康効果が得られるとされています。
ただし帝王切開や会陰裂傷等合併症があった場合は、いつごろから運動しても良いか、まず主治医と相談することが大切です。
※参考:WHO
ストレスの発散
大きく変わってしまった産後の生活の中でも、できるかぎりストレスを発散することでPMSの症状が和らぐことがあります。育児中でもできる対策をみていきましょう。
● 隙間時間にできるだけ睡眠をとる
● 赤ちゃんが寝ている間にお気に入りの曲を好きなだけ聞く
● 感動的な映画やドラマで思い切り泣く
● ハンカチやティッシュにエッセンシャルオイルを垂らして嗅ぐ
● 地域の子育て相談制度等を使い不安を思い切り聞いてもらう
また、周囲の人に自身の気持ちをしっかりと伝えることも大切です。面と向かって言いにくい場合は、メッセージアプリ等文字で伝えるのもよいでしょう。
産後のPMSの治療方法
症状の程度が重く、つらい場合は、処方薬の服用や専門家によるカウンセリングが行われることもあります。どのような治療法があるか紹介します。
処方薬を服用
PMS治療の基本は、生活改善や運動療法です。これは、PMSの原因がはっきりしておらず、基準となる数値がないからです。
薬での治療が必要と判断された場合は、症状に合わせて低用量ピルや抗うつ薬、漢方等を服用します。
PMSの症状緩和には、漢方薬が用いられることが多いです。疲労感やむくみの解消に当帰芍薬散や補中益気湯等、症状に合わせて選択されます。
ただし、どのような治療が有効かはPMSの症状にもよるほか、授乳中は服用できない薬もあります。自身の状態に合わせた薬を選択できるように、まずは病院で医師に相談するようにしましょう。
PMSに詳しい専門家のカウンセリング
心のもやもやや不安、いらだち等精神的なPMSの症状が強い場合は、カウンセリングも効果的です。病院等で紹介してもらう際は、公認心理師や臨床心理士等、有資格者かどうかをチェックしておきましょう。
また、近年はオンラインでカウンセリングを受付けていることもあります。PMSに詳しく、メンタル的な不調のサポートに長けたカウンセラーを探すこともできるため、カウンセラーを探せるサイトを活用するのもおすすめです。
PMSとは
産後にPMSが悪化する可能性に備えて、PMSの正体を知っておくことも大切です。ここではPMSとは何かを解説します。
生理前におきる身体や精神の不調
PMSとは「生理(月経)の3~10日前の期間におき、生理が始まるとなくなったり軽くなったりする身体的・精神的な症状」をいいます。
症状は多岐にわたり、人によって程度もさまざまです。主な症状を表にまとめました。
症状が出る場所 | 症状 |
---|---|
身体的 | ・腹痛 ・だるさや倦怠感 ・頭痛 ・むくみ ・体重増加 ・便秘 ・めまい ・吐き気 |
精神的 | ・イライラ ・不安感 ・集中力の低下 ・情緒不安定 ・涙もろくなる ・何もしたくなくなる(無気力) |
診断の際には、1カ月単位で同じ症状が出るか、次の生理周期まで再発がないか等をチェックします。
上記のような症状が生理前に起きている際は、事前に症状や生理周期をカレンダー等に記録しておきましょう。出産後の症状変化等も分かりやすくなります。
PMSの原因はまだ不明
2024年1月時点で、PMSのはっきりとした原因はまだ分かっていません。現時点では次のような複数の原因が複数絡み合い、影響しあっていると考えられています。
● ホルモンバランスの変動
● 交感神経・副交感神経の乱れ
● マグネシウムやカルシウムの欠乏
● ビタミンB6の低下や欠乏
● 気持ちを落ち着かせる神経伝達物質の異常
また、症状が出るタイミングも「忙しいと出やすい」や「悩み事があると出やすい」等、人によってさまざまです。症状も身体症状が多い人と精神症状が多い人とさまざまなため、原因を1つに絞ることは困難とされています。
PMSの発症は珍しくない
妊娠可能な女性のうち、PMS経験者は20~50%とされています。つまり、PMSの症状が出て悩んでいる人は、決して少なくありません。
また、公益社団法人日本産科婦人科学会によると、PMSを発症した人の中で約5%の人は、生活に支障がでるほど症状がひどいとされています。妊娠できる女性が100人いれば20人から50人に症状が出てしまい、そのうち3人が該当する数値です。
※参考:公益社団法人日本産科婦人科学会
PMS以外で産後に注意したい不調
産後のホルモンバランスや生活の変化は、女性の体にさまざまな不調をおこします。PMSにも似た症状があり、かつ、注意したい2つの不調を特徴や対処法と共に紹介します。
産後うつ病による精神の不安定
産後うつ病とは、出産から数週間、あるいは数カ月のうちに起きうる精神疾患のことです。発症すると気分の変動が激しくなり、自分では涙をコントロールできない、深い悲しみに襲われるといった症状が出ます。
うつ病は誰しも起きうる病気ですが、産後は女性の一生の中でもうつ病が起きやすい時期です。産後に10~15%の確率で起きる可能性があります。
出産時はホルモンの変化により、脳がストレスに弱くなっています。さらに環境の変化が重なってしまうため、ストレスを処理できなくなった脳が物事を否定的にとらえやすくなってしまうことも原因です。
人によっては、育児疲れでは説明できないほど体が疲れ、不眠、食欲低下、赤ちゃんへ興味を持てないといった状態が数カ月も続くことがあります。産後から2週間以上、悲しい気持ちや日常生活がつらいと感じる場合は、早めに専門家へ相談することが大切です。
治療法は精神療法や抗うつ薬等です。母乳を与えている場合でも、薬剤を選べば授乳を続けられるため、医師へ相談しましょう。
※参考:大阪府妊産婦こころの相談センター
PMSと産後うつ病はどう違う?
PMSにより精神的に起きうる症状は、次の内容が挙げられます。
● 激しく不安になってしまう
● 落ち着かず物事に興味がない
● 日常生活が送りにくくなるほど情緒不安定
● 判断力や集中力が続かない
● イライラして怒りっぽくなる
産後うつ病とPMSの違いは、症状が現れるタイミングです。産後うつ病は症状がいつも現れますが、PMSは生理が始まる前に症状がおこります。
もしも普段と違う、生理はまだ始まっていないといった時には、早めに医師へ相談しましょう。
※参考:e-ヘルスネット(厚生労働省)
※参考:日本産婦人科医会
妊娠高血圧症候群による高血圧
PMSにより体に出る症状は、むくみやめまい、頭痛等です。しかし妊娠中に妊娠高血圧症候群だった場合は後遺症により高血圧が続いているかもしれません。
妊娠高血圧症候群とは、妊娠中に血圧が高くなり、たんぱく尿やむくみ等の症状が現れる病気です。原因ははっきりと分かっていないものの、放置すると赤ちゃんの栄養・酸素不足がおこり、成長が止まったり、悪くなったりする恐れがあります。
大部分は出産すると症状がよくなるものの、人によっては高血圧が維持され、むくみやたんぱく尿が続く場合があります。高血圧やたんぱく尿等が治まるまで、症状にあわせて塩分等を抑えた食事や降圧薬の内服が必要です。
治療せずに放置すると、将来、生活習慣病や腎機能の低下、場合によっては脳出血を起こす恐れがあります。血圧が高い状態が続くようであれば、すぐ産婦人科で相談しましょう。
※参考:国立成育医療研究センター
産後のPMSに役立つ制度
産後の生活を送る中で、PMSによる精神・肉体の不調は大きな負担です。PMSの症状が重くなった場合に備えて、役立つ制度の利用方法をチェックしておきましょう。
各自治体の訪問育児サポート
不調が出ているとき等に使える、各自治体が提供する育児サポートです。
提供内容や制度の仕組みは自治体によって異なります。内容は多岐にわたり、育児経験のある人が直接自宅にきてケアを手伝ってくれるもの、家事手伝いや育児の不安相談を受けてくれるもの等さまざまです。
また、料金がかかるケースとかからないケースがあります。自治体によっては規定の時間まで料金がかからなかったり、条件付きで無料になったりするため、事前に調べておくとよいでしょう。
救急安心センター
電話番号「♯7119」へかけることで、病院にいくべきか相談できる制度です。電話先では、医師や看護師、専門の相談員が状況を聞き取り、救急車を呼んだ方がよいか、医療機関へ受診した方がよいか等を案内してくれます。
産後のPMSで具合が悪くなってしまい、救急車を呼ぶべきか悩んだときにおすすめです。
一時保育
料金を支払い、1日から数時間と短時間だけ子供を預かってもらう制度です。認定保育園や認定こども園、民間の託児所等が実施しています。
通常の保育園の利用と異なり、一時保育は就労の有無にかかわらず基本的には誰でも利用可能です。たとえば「PMSの症状が重く辛い」という理由でも、一時保育を利用できます。
利用時には、一時保育を実施している保育施設へ問合せ、利用登録を行うことが多いです。一時保育に対応している施設は、各自治体のホームページから検索できます。産前に探しておくと安心です。
また、料金や持ち物、預けられる時間、日数等は預け先によっても異なります。料金は子供の年齢が低いほど高い傾向にあるため、事前に調べておきましょう。
そして、自治体によっては、補助を受けられることもあります。たとえば横浜市ではひとり親世帯に対し、必要な書類がそろっていれば利用料全額を減免するといった制度を設けています。
※参考:横浜市
まとめ:PMSの症状が重いときは無理せず相談
産後のPMSの変化は、誰にでも起こりうることです。育児のストレスを受けながら十分に休息できない等、変化してしまう原因は多岐にわたります。
セルフケアでPMSの症状を和らげるには、摂取する栄養を意識した食事や有酸素運動、ストレスの発散といった方法がおすすめです。生理が始まってきたら、以前と症状に変化がないかチェックするのもよいでしょう。
一方で、PMSの症状と似ていても、実は別の病気が潜んでいる場合もあります。対策を心がけても不調が続いて辛いときには、産婦人科で相談することも大切です。休息をとる際は、家族の協力以外に自治体の制度や一時保育、生理休暇制度等も活用できます。
産後だから、PMSだからといって無理をせず、赤ちゃんと一緒に笑顔で過ごせる工夫を見つけていきましょう。