つわりの原因は解明された?最新の研究内容と症状の対策を解説
PROFILE
1 つわりの原因は胎児がつくるホルモンの可能性がある
2 つわりの原因と考えられるホルモンの基礎知識
3 つわりの症状別の対策方法
4 つわりに似た体調不良が起こる原因
5 つわりに関するよくある疑問
6 つわりの原因を知り、症状に合った対策を取ろう
つわりの原因は胎児がつくるホルモンの可能性がある
つわりの原因は長い間不明なままでしたが、最近になって海外の研究により明らかになってきました。
2023年12月、イギリスで発行されている総合科学学術雑誌「Nature」に、ある研究に関する論文が掲載されました。CBGS(the Cambridge Baby Growth Study)という研究グループをはじめとするチームが行った研究によると、特定のホルモンの値が妊娠中のつわりに関連している可能性が高いとのことです。
つわりの原因とされるホルモンGDF15(Growth Differentiation Factor 15)は、胎児由来のホルモンです。妊娠して胎児が育つことで、GDF15が母体の血液を循環します。
研究によると、妊娠前にGDF15の値が低かった女性ほど、つわりや妊娠悪阻(おそ)の発症リスクが高くなることがわかりました。一方、妊娠前のGDF15の値が高かった女性は、妊娠中につわりで苦しむケースが少なかったのです。
もともとGDF15の値が低い女性は、妊娠によるホルモン値増加に対する感受性が高いため、GDF15によって引き起こされるつわりが重症化すると考えられています。今は、つわりの原因と思われるホルモンがあると判明した段階ですが、今後つわりを予防できる対策方法が発見される可能性もあるでしょう。
参考:nature asia
つわりの原因と考えられるホルモンの基礎知識
つわりの原因と考えられるホルモンGDF15については、2017年にも「Nature」に記事が掲載されているほか、さまざまな機関で研究が進められています。基礎知識を確認して、つわりの原因に関する理解を深めましょう。
GDF15の役割
2017年10月に「Nature」に掲載された記事によると、つわりの原因と考えられているGDF15というホルモンは、脳の摂食中枢に作用することで食欲不振を起こし体重が減少してしまいます。がん等の疾患で見られる体重減少も、高いGDF15の値が関係していると考えられています。
また、東京都健康長寿医療センター研究所の老化機構研究チームが2016年に発表した研究結果でも、GDF15について触れられています。GDF15には、抗炎症や心筋保護、神経保護等の作用があるとされ、さらなる研究や疾患の治療薬開発に今後役立てていくと結論づけられました。
GDF15は、妊娠したことで突然現れるホルモンではなく、もともと人体に存在するものです。今後つわりや疾患に関する研究でGDF15の理解が深まれば、妊娠中の不快な症状改善に役立つ可能性も高まるでしょう。
参考:nature
東京都健康長寿医療センター研究所
GDF15の測定方法
つわりの原因と考えられているホルモンGDF15を測定する際は、ELISAという抗原抗体反応を利用した専用のキットを用います。血清や尿等で測定し、使用するキットによっては90分ほどで測定を終えることが可能です。
また、自動分析装置を用いて血清に含まれるGDF15を測定する方法もあります。GDF15が多く含まれるほど試薬に濁りが出るという特性を利用し、どの程度濁ったかで含まれるGDF15の量を測ることが可能です。こちらの方法では、約10分で結果が出ることもあります。
つわりの症状が出やすい時期
一般的に、つわりの症状は妊娠5〜6週目に始まることが多いです。ただし、妊娠4週目からつわりの症状が出る方もいるため、人によってタイミングは異なります。
つわりのピークは妊娠8〜10週目頃とされていますが、これも人によってさまざまです。妊娠15〜16週目頃につわりの症状が落ち着くのが一般的ですが、人によってはつらい症状が長く続くこともあります。つわりが出やすい時期は、あくまで目安と考えましょう。
また、1人の赤ちゃんを妊娠する単胎妊娠よりも、双子や三つ子を妊娠する多胎妊娠のほうが、つわりの症状が重くなりやすいです。赤ちゃんが1人よりも2人や3人のほうが母体に負担がかかりやすいため、つわりの症状も重くなると考えられています。
つわりの症状別の対策方法
つわりの原因はGDF15というホルモンで、全妊婦に共通していると考えられています。しかし、原因が同じでもつわりの症状には個人差があり、何をつらいと感じるかは人によってさまざまです。そこで、つわりの症状別の対策方法を確認し、つらい症状を和らげられるようにしましょう。
吐きづわりの場合
つわりの代表的な症状として、吐きづわりが挙げられます。吐きづわりは妊娠初期に多く見られ、常に吐き気を感じる症状です。胃もたれや胃のむかつきを感じたり、嘔吐してしまったりすることもあります。
何かを食べると吐いてしまう場合は、無理に食事を取る必要はありません。水分補給をしっかりして、体調を観察しましょう。食べられそうなときは、吐き気をもよおさない食べ物を探してみてください。
アイスキャンディーやゼリー、野菜スープ、豆腐、おかゆ等は、水分を多く含んでいるため食べやすいです。ヨーグルトやレモン、トマト、梅等の酸味のある食べ物も、さっぱりとしていて食べやすいでしょう。一度にたくさん食べず、回数を増やして少しずつ食べるのが吐き気を抑えるコツです。
食べつわりの場合
食べつわりは、空腹になると吐き気を感じてしまう症状です。気持ち悪くならないよう、空腹を避けるのが有効な対策といえます。
具体的な対策として、空腹を避けられるよう、食事の回数を増やしてみましょう。ただし、妊娠中は母子の健康を保つために、体重管理をしなければなりません。1日の摂取カロリーを増やしすぎないように、1回の食事で摂取するカロリーを抑えることを心がけてください。
通常1日3回で食べていた献立を細かく分割すれば、摂取カロリーを増やさずに食事の回数を増やせます。例えば、ごはんを1回の食事で1膳食べるのではなく、小さいおにぎりにして何度も食べるイメージです。
食事を分割して食べるのが難しいと感じる方は、カロリーの低いおやつを食べるのもおすすめです。カロリーの低いノンシュガーガムや、するめ、酢昆布等よく噛んで食べるものは、空腹対策に向いています。
よだれつわりの場合
よだれつわりは、特に妊娠初期に多く見られるつわりです。唾液がたくさん出るようになり、飲み込めずあふれてしまう症状をさします。唾液を飲み込むと気持ち悪くなる、口の中が常にネバネバしていて不快感がある等の症状がみられ、吐き気を感じたり嘔吐したりするケースも少なくありません。
よだれつわりになったら、唾液は無理に飲み込まないようにしましょう。ティッシュで拭いたり、ペットボトルに吐き出したりすることで、気持ち悪さを抑えられます。また、食事を小分けにするのも効果的な対策です。一度に取る食事の量が多いと唾液の分泌量も多くなるため、少ない量の食事を何回かに分けて食べるのがいいでしょう。
また、唾液を吸い取ってくれる食パンやさつまいも、ゆで卵等を食べるのもおすすめです。食事以外の時間で唾液が多く気持ち悪さを感じるときは、あめやガム等を口に入れるのもいいでしょう。口内をスッキリさせるために、マウスウォッシュを使うのも効果的です。
眠りつわりの場合
夜だけでなく日中にも強烈な眠気があり、仕事や日常生活に支障が出る眠りつわりという症状もあります。自律神経の乱れが影響していると考えられており、眠気だけでなく頭痛やイライラ、倦怠(けんたい)感等を引き起こすことも多いです。
絶対に今やるべきことでなければ、無理をしないで眠るのが効果的な対策です。労働基準法では、妊娠中の女性労働者が医師や助産師から休憩に関する指導があった旨申し出た場合、事業主が休憩に関する適切な措置をすることが義務付けられています。適切な措置には休憩時間の延長や増加、休憩時間帯の変更などがあり、これを活用して仮眠をとるという選択ができる場合もあるでしょう。
医師からの指示内容を上司や産業医に相談することや、必要に応じて診断書や母性健康管理指導事項連絡カードを提出することも検討してみましょう。
どうしても寝たくないときは、ストレッチや散歩等で体を軽く動かしてみましょう。冷たい水で顔を洗ったり、人と会話したりすることも眠気覚ましに有効です。
においつわりの場合
妊娠するとにおいに敏感になるというのは、よく聞く話でしょう。これはにおいつわりと呼ばれる症状で、特定のにおいを嗅ぐと気持ち悪くなってしまうつわりです。妊娠前は気にならなかったにおいを不快だと感じるようになるので、日常生活のなかでストレスを感じることも少なくありません。
炊き立てごはんのにおいや汁物のにおい、煮物のにおい等が苦手になる妊婦の方は多くいます。温かい食べ物はにおいが立ち上りやすくなるため、においつわりがあるときは食事を冷ましてから食べるようにしてください。
また、スーパーの鮮魚コーナーや試食コーナー等、苦手なにおいがする場所はできるだけ避けましょう。苦手なにおいが発生する場所を通るときは、ハンカチを鼻に当てたりマスクをしたりする対策も効果的です。
シャンプーやアロマ、洗濯洗剤、柔軟剤等、妊娠前に好んで使っていた製品のにおいで気持ち悪くなることもあります。妊娠中は、できるだけ無香料の製品を選ぶといいでしょう。妊娠線対策のためのマタニティークリームも、無香料の製品があります。
つわりに似た体調不良が起こる原因
妊娠中は、つわりによく似ているもののつわりではない体調不良が起こることがあります。つわりかそうでないかを見分けるのは難しいですが、症状が起こっている原因に心当たりがある場合は、速やかに医師に相談しましょう。以下では、つわりに似た体調不良が起こる原因として考えられるものを紹介します。
妊娠用ビタミン剤
妊娠中に処方されるビタミン剤が、吐き気の原因になることがあります。
つわりの症状を軽減するために、ビタミン剤が処方されるケースは多いです。特にビタミンB6は、吐き気を抑える効果があるとされています。しかし、鉄分が含まれたビタミン剤を処方された場合、まれにつわりのような吐き気が引き起こされることもあるため注意が必要です。
妊娠中にビタミンを摂取するのは大切ですが、ビタミン剤の摂取を始めてから体調が悪いと感じるときは、速やかに医師に相談してください。飲み続けても問題がないかどうかを、医師が判断してくれます。
腹部にある臓器の病気
虫垂炎や腸閉塞、胆嚢炎等を起こしていると、つわりと同様に吐き気や嘔吐の症状が現れることがあります。吐き気や嘔吐以外の症状を確認して、つわりか否かを医師に相談して判断するようにしてください。
なお、虫垂炎は虫垂の内部に閉塞が生じ炎症が起こることで発生する感染症で、急性虫垂炎は盲腸とも呼ばれます。虫垂炎は吐き気や嘔吐のほか、腹部の右下部に痛みを感じたり、発熱したりするのが特徴です。
腸閉塞は、腸管の内容物が詰まって肛門側に移動できなくなってしまう状態です。吐き気や嘔吐のほかに、腹部の痛みや膨満感が起きやすく、食欲不振も見られます。胆嚢炎は胆嚢に炎症が起きた状態で、胆石が胆嚢管をふさぐことで起きることが多いです。右上腹部に痛みを感じ、右肩甲骨の下側や背中にまで痛みが広がることが多くあります。
脳に関わる病気
片頭痛や頭蓋内出血、頭蓋内圧亢進等、脳に関わる病気があると吐き気や嘔吐が生じます。腹部の臓器の病気と同様、つわりとは関係ない症状があるかどうかを確認し、重篤な症状があると判断したときは速やかに医療機関を受診しましょう。
妊娠中は自律神経の乱れによって頭痛が引き起こされることもありますが、脈打つようにズキズキとした頭の痛みがある場合は、片頭痛の可能性もあります。片頭痛は吐き気を伴うほか、光や音、においに敏感になったり集中力が下がったりするため、注意深く観察してみてください。
頭蓋内出血は脳出血とも呼ばれており、突然起こります。吐き気や嘔吐のほかに、重度の頭痛も見られるのが特徴です。意識の変化が起こることもあり、直ちに医療機関を受診しなければ命に関わります。
頭蓋内圧亢進は、頭の骨格にかかる内圧が通常よりも高く維持される症状です。嘔吐や頭痛等の症状が見られ、脳ヘルニアに移行すると命の危険もあります。
つわりに関するよくある疑問
つわりはいまだに不明点が多く、妊婦を悩ませています。一方、明確になっている事実もあるため、確認しておけばある程度不安を解消できるでしょう。多くの方がつわりに関して疑問に思うポイントを、以下で解説します。
つわりと妊娠悪阻の違いは?
妊娠悪阻とは、つわりが重症化した状態です。強い吐き気や激しい嘔吐が見られ、脱水症状を起こし体内の電解質のバランスが崩れます。また、嘔吐により著しく体重が減少している場合も、妊娠悪阻と診断されるのが一般的です。
通常のつわりとは異なり、妊娠悪阻は母体や胎児に影響を及ぼす危険性があります。嘔吐が続き、食事や水分の摂取が難しいときは、早めに医師に相談してください。
つわりを理由に仕事を休める?
つわりが原因で体調不良になった場合、仕事を休むことができます。女性職員につわりの症状が見られ、医師から指導があった場合、事業主は勤務時間を変更したり勤務を軽減したりする措置をしなければなりません。これは、男女雇用機会均等法第13条で決められています。
また、つわりの症状が重く、仕事を休まなければならない場合には、傷病手当を活用できる可能性があります。医師の診断を受ける等いくつかの条件を満たせば手当を受けられるので、仕事が困難なほどつわりがひどいと感じたら、医師に相談してみてください。
参考:e-GOV
つわりが起こるのは日本人だけ?
つわりは日本人特有のものではなく、世界中の妊婦に共通する症状です。英語の「morning sickness」や中国語の「孕吐」、スペイン語の「náuseas matutinas」等、それぞれの言語につわりを表す言葉があります。日本人と同様、海外の妊婦もつわりの有無や症状は人それぞれです。
つわりが終わらないケースはある?
安定期に入る頃には、つわりの症状が落ち着くケースが多いです。しかし、安定期に入ってからも、吐き気や嘔吐等の症状に悩まされる妊婦の方もいます。
胎児の成長で胃腸が圧迫されたり、ストレスで気持ち悪くなったりして、なかなか吐き気や嘔吐が治まらないこともあります。出産するまでずっと吐き気が続くことも少なくないので、つわりが終わらないからといって過度な心配は不要です。
つわりの原因を知り、症状に合った対策を取ろう
胎児由来のGDF15というホルモンが、つわりの原因だという可能性があるとわかってきました。今後研究が進めば、つわりの症状を抑える治療法が確立されるかもしれません。
現時点ではつわりの症状が消失する薬等はないため、症状に合わせて対策を取る必要があります。食べつわりや吐きづわり等、つわりの症状が見られるときは、無理せず自分をいたわりながら過ごしましょう。